ベジータの純愛日記
第一部「誇り」
※各日記に付けられたタイトルは、ブルマ@管理人が独自の判断でつけたものです。
   

迎合

   「あんたも来たらー?どうせ宿賃もないんでしょ?」
   その一言がすべての始まりだった。
   立て続けざまに
   「ただし、いくら私が魅力的だからといっても悪いことしちゃ駄目よ」
   と捲くし立てる。
   「下品な女だ…、でかい声で…」
   俺様はそう吐き捨てると女を睨み付けた。
   しかし、女は俺様の殺気など、どこ吹く風。
   低俗な仲間どもとの話に夢中だ。
   「僕もブルマさんのところへ泊めていただこうかな」
   申し訳なそうな声で、そう言ったのはカカロットの息子だ。
   どうやら、あの女はブルマという名らしい。
   「ブルマ…」知らぬ内に俺様は心の中で、小さくそう呟いていた。
   しばらくすると、地球語でカプセルコーポレーションと書かれた
   運搬専用のような飛行機がやってきた。
   俺様はこれでも、元王子、全宇宙で184ヶ国の言語解することができる。
   どうやら、それに乗ってみんなでどこかに移動するらしい。
   しかも泥臭いナメック星人ども一緒のようだ。
   「ふざけるな!空を飛んだ方が速いだろうが!」
   そう言いかけて言葉を飲み込んだ。
   なぜか今は騒動を起こす気分ではない。
   それにブルマという女は空は飛べないようだ。
   なぜ騒動を起こすことを躊躇したのか。
   飛行機に乗ったはいいものの、言い様の無いイラだちが、
   俺様を支配していた。

再来

今日の昼食はバーベキューらしい。
冗談じゃない!なぜ俺様がクズどもと仲良くバーベキューなど!
「他にはなにもないわよ」
ブルマだ。相変わらずの言い方だ。
だが、俺様は黙って席についていた。
この気分はなんだ?開襟シャツとスニーカーの着心地も悪くない。
そう悪くないだけだ。少しも良くはない筈だ。
「…!!」
なんだ!?巨大な気!!
間違いないフリーザの気だ!!
隣にいるヤムチャとかいう奴も気が付いたようだ。
「カカロットのヤロウ… とどめをささなかったな…!」
言い終わるが早いか、俺様はフリーザが着くであろう場所へ向かっていた。

変遷

「このあたりに降りてきやがるはずだ」
現場についたのは俺様が一番乗りらしい。
ヤムチャとかいう奴もいる。
足手まといが…!心の中で呟いたが、口に出さない分
俺様も丸くなったと言う事か?嫌な気分だ。
遅れて飛行機がやって来た。ブルマだ。
「フリーザってのを見にきたのよ」
どこまで馬鹿な女なんだ。
それだけじゃない。うじゃうじゃと地球人どもが
集まってきやがる。あのナメック星人も。
「戦闘力を消せ!まぬけめ!」
苛立ちが言葉となって口をつく。
頼りになりそうなのは、唯一戦闘力を消していた
ナメック星人だけか。
…まてよ。頼り?俺様は何を言っている?
この俺様が誰かを頼りに?どうも調子がおかしい。
俺様はずっと一人で生きてきた筈だ。
それはこれからも変わらない。
突如として地響きのような巨大な音がする。
宇宙船が頭の上を通過していく。
なんてことだ!コルドのヤロウまでいやがる!
言いようの無い絶望感がその場を覆う。
耐え切れず叫びだしたのはヤムチャだ。
「冗談じゃないぜ…、近づいていってどうしようってんだ…!」
もはやすべてが分かりきった事だ。
「はっきり言ってやろうか?」
自嘲の笑みをうかべると俺様は言葉を続けた。
「これで地球はおわりだ」

使者

目の前にフリーザとコルドを一瞬の内に殺したヤロウがいる。
しかも、どういう事か俺様の様子を伺っていやがる。
だがしかし、どこかで見た事があるような気がするのは気のせいか?
髪の色が、どこかしらブルマに似ている。ブルマ…。
なぜあの女の事が頭に浮かぶ!?
俺様は考えをかき消すように男に言葉をぶつけた。
「なにをさっきからジロジロみてやがるんだ」
「す…すいません」
男は気まずい様子で目を伏せる。
「気にいらないヤローだ」
その言葉は、男への、しかし同時につまらない考えを巡らす
自分への言葉でもあった。
空気を切り裂くような音が聞こえる。宇宙船だ。
大きな地鳴りと共に宇宙船が着陸し、扉が開く。
カカロットだ。
ホントに生きてやがったか…。
しかし、それとは裏腹に喜びに近い感情も生まれる。
なぜだ? …そうか、俺様はスーパーサイヤ人を見てみたいんだ。
それ以外に何がある。

無力

かつて、これほどの屈辱感と敗北感を感じたことがあっただろうか。
今、目の前にスーパーサイヤ人がいる。カカロットだ。
そして、男もスーパーサイヤ人になる。
何か分厚い壁にさえぎられたように奴らとの距離を感じる。
手が届かない。俺様はエリートだ。王子なんだぞ。
その言葉が頭の中で無限に繰り返されていた。

抱擁

今日は600倍の重力室に入る事になっている。
あの謎の男が未来に帰ってから1年が過ぎていた。
人造人間とやらが現れるまで後2年。
必ず俺様が生き残ってやる。
重力室に向かう廊下、電気もついていない暗い部屋から
人の気配を感じる。
「ベジータ…?」
ブルマの声だ。いつもと様子が違う。
「いつものことよ。ヤムチャがね…」
部屋から姿を現したブルマはそう言って笑顔を作る。
しかし、やはりいつもとは違う。
この家に住むようになって2年以上経つが、
この女が泣いているのを初めて見た。
自分の中で、ヤムチャに対する怒りが湧き上がってくるのを感じる。
それを感じたのか、
「大丈夫だから」
そう言ってブルマがまた笑顔を作る。
しかしその目からは容赦なく涙が溢れていた。
気が付くと俺様はブルマを抱きしめていた。
俺様の中で今までとは違う何かが生まれようとしていた。

誕生

   ガラス越しの保育器の中にいる俺様の子供。
   そう間違いなく俺様の子供なんだ。
   ブルマは出産の疲れか、まだ眠っている。
   ブルマの頬に手をそえる。
   暖かい。
   今日は800倍の重力室。
   人造人間が現るまで1年足らず。
   だが、俺様は限界を感じていた。
   どんなに修行を繰り返しても、カカロットには
   はるか及ばない。
   俺様はスーパーサイヤ人になる事が出来ないのか。
   ブルマの笑顔が浮かぶ。
   「この子トランクスって名前にしようと思うの」
   1年後には何かかも消えうせてしまうのか。
   ブルマも、トランクスも。
   俺様にはどうする事も出来ないのか。
   涙が流れた。
   そして、同時に不甲斐ない自分自身への激しい怒りが
   叫びとなって部屋を埋め尽くす。
   「うおああああああああ!!!!!!!」
   …なんだ?力が湧いてくる。今までに感じた事の無い果てしない力。
   体が光に包まれている。
   スーパーサイヤ人!?
   俺様はついになれたんだ!伝説の戦士に!
   ハハハ。もう誰にも負けるもんか。
   やっぱり俺様は王子。ナンバーワンだったんだ!
   ハーハッハッハッハッハ!!!

再会

   やっぱりこの程度か、がっかりさせやがる。
   目の前の人造人間はピッコロに腕まで千切られ、
   情けない姿をさらしてやがる。
   …!?
   巨大なエネルギーが近づいてくる。
   現れたのは未来から来たという例の男だ。
   「トランクス…」
   呟くように言ったピッコロの言葉を俺様は聞き逃さなかった。
   未来からきた…、そうか!どうりでサイヤ人の血を引いてる訳だ。
   「誰なんですか…?あいつは…」
   トランクスは怪訝な顔で人造人間を見つめるとそう言った。
   「誰って、テメーの言ってた人造人間だろうが!!」
   しかし、その言葉が無意味である事はトランクスの顔が語っていた。
   突如として飛行機が飛んできた。
   「ヤッホー」
   ブルマだ。相変わらずの無計画、無鉄砲だ。
   その機を逃さなかったのは人造人間のヤロウだ。
   「17号と18号がいまに貴様らを殺しに来るぞ!!」
   言うが早いかブルマの飛行機に向けてエネルギー弾を飛ばす。
   「キャー!!」
   辺りが光に包まれる。
   それが晴れたときブルマとトランクスは、
   未来のトランクスの腕に抱かれていた。
   そして、同時に人造人間の姿も消えていた。
   「くそ!!逃げやがったー!!」
   不意に未来のトランクスが目の前に立ちはだかる。
   「なぜ今あなたは助けなかったんですか!?」
   「あなたの奥さんや子供でしょう…!」
   トランクスの顔は明らかに怒りに包まれている。
   「くだらん、オレはそんな事に興味がないんだ」
   そう吐き捨てると俺様は人造人間を探す。
   スーパーサイヤ人になると軽い興奮状態になる。
   しかも、17号と18号。
   俺様は新たなる強敵の出現に心躍っていた。
   それが戦闘民族サイヤ人の純粋な血というものだ。
   それに、なによりトランクスはブルマ達を助けるしかないと判っていた。
   無駄な事はしない主義だ。
   

苛立

ピッコロの大幅なパワーアップはどういうことだ。
神と合体しただと!?そんな事で俺様を超える力を得たというのか。
しかもセルだと。
ふざけやがってどいつもこいつも…!!
宇宙一のスーパーサイヤ人をあっさりと出し抜きやがって。
頭にくるぜ…!!なぁカカロット。
「なんとしてもセルと17号、18号の合体をふせがないと…」
そう言った天津飯の表情には絶望の色が表れていた。
「せこい作戦ばかり立てやがって!」
「合体したいならさせてやればいいだろう!」
もはや苛立ちを隠すことすら馬鹿らしい。
「甘く見るなベジータ」
「オレに偉そうなクチ聞くんじゃねー!!」
俺様は怒りに任せてそう言い放った。
「オレは必ず超えてやるぞ…!スーパーサイヤ人をさらに…!」
そうだ必ず超えてやる。
いつだってナンバーワンはこの俺様でなければならないんだ。

修行

   なにも無い真っ白な世界。
   精神と時の部屋に入り半年が過ぎた。
   俺様はとっくにスーパーサイヤ人を超えていた。
   だが、まだ何かある筈だ。もっと強くなれる筈だ。
   パワーに拘った変身すれば、それだけは爆発的に上がるが、
   「それ」だけだ。スピードは格段に落ちる。
   どうやらトランクスのヤロウもその変身に気づいたようだが、
   まさか、それで良いと思ってるほど阿呆ではないだろう。
   そうではなく、もっと違う何かがある筈なんだ。
   おそらくそれが本当の意味でスーパーサイヤ人を超える
   ということなんだ。カカロット、テメーならどうするんだ?

苦悩

   「おめえの出番だぞ!悟飯!」
   平然とした顔でカカロットはそう言い放った。
   俺様はあれだけ特訓したがカカロットを超えられなかった
   あのヤロウは天才だ。
   だが悟飯はそれは更に上回っているというのか…!?
   「平和な世の中を取り返してやるんだ」
   「学者さんになりたいんだろ」
   カカロットはどこまでも余裕をもってやがる。
   悟飯の力はそれほどだと言うのか。
   「わ…わかりました、やってみます…」
   今まさに地球の未来を決する戦いが始まろうとしている。
   俺様はここで何をしているんだ。
   誰にも勝てず、誰も守れず、ここで何をしているんだ。

訣別

まるで風船のように膨らみ始めたセルは不適な笑みを浮かべると、
こう言った。
「後1分でオレは自爆する」
な…なんだと、自爆…!?
「そうはさせるか!」
身構える悟飯。
「おっと攻撃しない方がいい」
「このオレに衝撃を与えればその瞬間に爆発するぞ」
一瞬にして全員の顔が青冷める。
あと10秒…。
終わりだ。
不意にカカロットがこちらを振り返り笑顔をつくる。
どういうつもりだ?
「やっぱどう考えても、地球が助かる道はこれしか思い浮かばなかった」
「バイバイ、みんな」
そう言うとカカロットは瞬間移動でセルの目の前に移動する。
ま…まさか。
「ここまでよくやったな悟飯」
「母さんにすまねぇって言っといてくれ」
「お…おとうさん…」
唖然とする悟飯。
悟飯だけじゃないその場に全員があっけにとられていた。
今、目の前からカカロットとセルが消えた事に。
カカロット…。
テメーが死んじまったら、俺様はこれから何の為に
生きていけばいいんだ。
教えてくれカカロット。

決着

セルは生きていた。
そのセルと悟飯がなにやら話している。

だが俺様の耳には一切入っていなかった。
セルのエネルギー弾に打たれたトランクス。
「ト…トランクス」
今の俺様にはそれ以外目に入っていなかった。
「くっそおーー!!!」
我を失っていた。
無我夢中でセルにエネルギー弾を打ち込む。
立ち登る砂煙。
そしてその中から平然と現れるセル。
無駄な事だと判っていた。無駄な事はしない主義だった。
セルに殴り飛ばされ地面に打ちつけられる。
追って迫ってくるセルのエネルギー弾。
それから救ってくれたのは悟飯だった。
だが同時に悟飯は腕を負傷していた。
「こ…このオレがお荷物になるとは…」
「す…すまなかったな悟飯…」
自然と言葉が出ていた。
この俺様が人にあやまるなど想像も出来なかった。
どうしようもない。俺様のせいで負けるのだから。
セルはかめはめ波ですべてを終わらせる気だ。
腕を負傷した悟飯がどこまで対抗できるのか。
俺様になにができる?だが、このままくたばってたまるか!
かめはめ波同士の激突。すさまじいパワーだ。
セルの優位は変わらない。
これが俺様の最後の力とプライドだ。
セルめがけエネルギー弾を飛ばす。
セルがこちらを睨み付ける。
それが一瞬の隙となった。
悟飯のかめはめ波がセルを上回ったのだ。

消失

すべてが終わった。
カカロットと悟飯のおかげだ。
完全にやられた。あいつら親子に。
「カカロットめ…!あんな死に方しやがって…」
激しい虚無感に襲われていた。
自分の力のなさに、そして生きる意味を失ってしまった事に。
「オレはもう…戦わん…」

帰還

ドラゴンボールでトランクスは生き返ったようだ。
そのトランクスが未来に帰るという。
こちらを向いて微笑むトランクス。
手で合図を返すと何かに納得したように更に笑みを見せる。
おかしなヤロウだ。
今の奴の力なら未来の人造人間を倒すことなど造作もないことだろう。
タイムマシンが消えても俺様はしばらく中を眺めていた。
ブルマとトランクスの傍に歩み寄ると、
トランクスの頭に手を置く。
怪訝な顔で俺様を見るブルマ。
「トランクス…」
「べジータ…!?ちょっと今…」
うるさい女だ。
自分の息子に声をかけて何が悪い。
「ねぇ…!今、トランクスって…!」
「初めてトランクスって呼んでくれたよね!!」
うるさい女だ。だから何なんだ。
そんな事で泣かれるいわれはないぞ。
ため息をつくと今度はブルマの頭に手を置いた。

息子

今日も重力室でトランクスと特訓に励む。
まさか、この俺様が自分の息子に戦いを教える日がくるとは。
人生とは分からないものだ。
繰り返される穏やかな日々。
カカロットが死んだとき、俺様の心には風穴が開いたようだった。
その穴を埋めてくれたのがブルマとトランクスだった。
悪くない気分だ。
「どうしたのパパ?ボクの顔じっと見て」
「いや…」
「2人ともご飯の時間よー」
インターホンからブルマの声が聞こえる。
「トランクス、ママの事好きか?」
なぜ、こんなくだらん事を聞いている?
最近、自分でも理解できない言葉を口にする事がある。
「うん!!パパの事も好きだよ!!」
昔の俺様なら怒鳴りつけていただろう。
「そうか」
促すようにトランクスの背中を叩くと、
俺様は部屋を出た。

機会

「そのなんとかって大会。貴様が出るならオレも出る」
「え?」
奇妙な格好をした悟飯は、驚きを隠せないでいる。
今の俺様の力を試す良い機会だ。
久しぶりにサイヤ人の血が騒ぐ。
「貴様が平和に浮かれている間もオレはトレーニングを続けていた」
「そうこの人全然働かないのよ」
ブルマが横槍を入れるが俺様の耳には入ってなかった。
それほど、久しぶりの戦いに心が高鳴っていた。
「オラもでるぞ」
不意に聞き覚えのある声が聞こえる。
「お父さんの声だ…!!」
カカロット!!心に直接言葉が聞こえてくる。
「占いババに頼んでたった1日もどれる日はその日にする」
「やったー!!ばんざーい!!」
悟飯は掛け値なしに喜んでいる。
だが、それは俺様も同じだった。
「楽しみにしているぞ。オレはずいぶんウデをあげた」
「オラもだ、ベジータ。みんな天下一武道会で会おうぜ」
いいぞ面白くなってきた。もう1度カカロットと戦える。
それは何ものにも変え難い喜びだった。
しかし同時に心の奥で何かひっかかるものがあった。
その時の俺様には、それが何なのか、まだ判っていなかった。

神導

抽選の結果、1回戦でカカロットと戦える…筈だった。
だが界王神とかいうヤロウが現れ、カカロットはその後についていく気だ。
「ふざけるな、カカロット!オレたちの対決はどうなったんだ!」
「オレは界王神のことなんかどうでもいいんだ!」
どいつもこいつも気に入らない!!
ようやくカカロットと心行くまで戦えると思ったのに、
なぜ俺様の純粋な気持ちを裏切るんだ!
「だったらおめえもついてこいよ。むこうでやろうぜ」
俺様の気持ちをかわすようにカカロットはそう言うと、
界王神を追って飛んでいった。
「気にいらない奴だぜ…!」
カカロットと戦うためについて行くしかなさそうだ。

開始

「あいこでしょ!あいこでしょ!」
よし勝った!
「まずはオレからだ」
「一人で戦うのですか?」
どうやら界王神とやらは俺様たちの事が何も分かっていないと見える。
「どうやらただ馬鹿なだけらしいな」
どこかの異星人らしい奇怪な生き物が臭い息と共に言葉を吐く。
「おしゃべりはそこまでだ。かかってこい」
異星人はニヤっと不適な笑みを浮かべたが、
その数十秒後俺様のエネルギー波で木端微塵になるとは夢にも
思わなかっただろう。
「バビディのやろう、つまらん相手をよこしやがって」
この分じゃ、魔人ブウとやも大したことはないだろう。
さっき、界王神が驚愕していたダーブラとやらも
セル程度の力しかなかった。
今や俺様達は巨大な力を持ちすぎてしまったんだ。
やはり、倒すべきはカカロット。
超えるべきはカカロットなんだ。

洗脳

目の前でダーブラとかいうヤロウト悟飯が戦っている。
しかもあの程度のヤロウに互角の戦いだ。
「いらいらするぜ!!このオレが終わらせてやる!」
俺様の苛立ちは頂点に達しようとしていた。
「そりゃねぇぜベジータ。やらせてやれよ」
口を挟むカカロットにそれは頂点を極めた。
「こんなお遊びはどうだっていんだよ!!」
「オレはこんなことさっさと終わらせて、てめぇと早くけりをつけたいんだ!!」
突如として景色が魔界とおぼしき場所から宇宙船に戻ると、
ダーブラは戦いを止めて引き返す。
「このダーブラが戦うまでもない。うってつけの戦士がみつかったのだ」
「みつかった!?どういうことでしょう…」
不安を隠せない悟飯。
!!
「うおおおおっ…!!!」
突然頭の中が何かに支配された。
「ベジータさん!悪い心をバビディに支配されようとしているのです!」
界王神の言葉が聞こえる。やはりそういうことか。
「無心になりなさい!」
「うるせぇ…!!!がたがたぬかすな…!!!」
そのとき、俺様の心には、一つの邪悪な考えが浮かんでいた。
許してくれブルマ、トランクス。
これが最後のわがままだ。
やはり俺様はどうしてもカカロットと戦いたいんだ。
次の瞬間、俺様の心はバビディに支配されていた。

勝負

天下一武闘会の舞台の上、観客席の一部は破壊されている。
そう破壊したのは俺様だ。
「ベジータおめえはオラに本気を出させる為に、
わざとバビディの技にかかり自制心を無くした。違うか?」
さすがカカロット。すべてお見通しか。
「こうでもせんと、貴様はオレと闘かわん…」
「それだけのことで、こんなバカなことを…」
界王神、てめぇなんかに何が分かる!
「ばかなことだと…!!オレにはそれがすべてだ!!!」
「こいつはオレの強さを超えやがった…!!」
「圧倒的な力を誇っていた王子であるこのオレをだ!!」
「こいつに命を助けられたこともあった…!!」
「許せるもんか…!!!絶対に…!!!!」
俺様は気持ちをぶちまけるように、一気にまくしたてた。
「バビディー!誰もいない場所にかえろー!!」
「オラはベジータと戦うことにしたー!!」
カカロット…!
「お待ちなさい!!どうしても戦いたいというなら私を倒してからにしなさい!!」
界王神が俺様たちの間に立ちふさがる。
周りを一瞬の静寂が包む。
カカロットが静かに界王神へエネルギー弾をうつように手を向けた。
カカロット…!!
「お好きにしなさい…」
界王神は苦々しく俯くとそうつぶやいた。
次の瞬間、周りは荒野に変化していた。
これでカカロットと決着がつけられる。
「あなたたちは心おきなく戦いなさい」
「私は悟飯さんと入り口を壊してバビディやダーブラと戦ってきます」
界王神はそう言うと、入り口を壊そうとする。
その時、不意に頭の中に言葉聞こえてくる。
「ベジータ!止めさせるんだよ!殺せ〜!」
バビディだ。同時に強烈な頭痛が襲う。
「ぬおおお…!!!」
「さあやれ!やるんだ!」
「こ…断る…!!!界王神が何をしようとオレたちの勝負には関係ない」
そうとも。誰にも邪魔させるものか。

戦士

「もう1度だけ言うからね、界王神をかたづけてしまうんだよ」
バビディの声が頭に届く。
「い…言ったハズだ。オ…オレはカカロットと戦いたいだけだと…」
「オレは誇り高き…サイヤ人の王子なんだ…」
「てめえの家来になんかなってたまるか…!!!」
「体と心は支配されても誇りだけは思い通りにはならんぞ!!!」
そうとも。俺様は俺様なんだ。
カカロットとの戦いだけは絶対に邪魔させん。
「それほどまでして、オラと決着を着けたかったのか、ベジータ」
不意に足元の入り口が開く。
バビディのヤロウもどうやら諦めたらしい。
界王神と悟飯が入っていく。
2人きりになると周りが何もない荒野に変わった。
「最高の力で早く終わらせてもらうぞ」
そう言うとカカロットは全開のパワーを出す。
「さすがだな、あの時の悟飯いじょうだ」
そして、俺様も最高のパワーを出す。
「こりゃあ早く終わりそうにはねえな…」
俺様のパワーにカカロットも驚いたようだ。
「いくぞ!!!殺してやるカカロット!!!」
そして、ついに待ち望んだ戦いが始まった。

言葉

予想通り、まったく互角の戦いだ。
「信じられねえ、オラはあの世で相当の修行をしたつもりだがな」
「おめえはオラ以上に修行してたんだな」
驚きを隠せないカカロット。だが真実は違う。
「確かに貴様以上の特訓はしたと思うが、貴様はオレの更に上を行く天才だ」
「いつまでたってもその差は変わらなかった」
「ショックだったぜ、だから密かに決心した…」
バビディの手下は大幅に力が増すようだった。
だから俺様も…。気にくわないやり方だったがな。
「強くなりてえだけで、プライドの高いおめえが支配されたってってのか?」
それだけじゃない。
「オレは…、オレは昔のオレに戻りたかったんだ!!!!」
「残忍で冷酷なサイヤ人に戻って、何も気にせず徹底的に貴様と戦いたかったんだ!!!」
何も気にせず…?
「気に入らなかった。オレともあろうものが家族を持ち悪くない気分だった」
家族…、ブルマ、トランクス…。
「だから、バビディに支配され、元の悪人に戻る必要があったんだ…!」
「おかげで今は良い気分だぜ」
「…本当にそうか?」
カカロットの言葉がいつまでも頭の中を巡っていた。

黙想

相変わらず互角の戦いが続く。その時だった。
「待てベジータ!!でかい気が現れた…!出ちまったんだ魔人ブウが!」
…やはりこの程度の戦闘力か。予想してた通りだぜ。
「ふはははははは…!!」
「いいかカカロット、オレたちは今や強くなりすぎてしまったんだ」
「いや、違う…。どこか普通とは違う気だ…」
何を恐れるというんだカカロット!
誰であろうと邪魔はさせんぞ。
「ガタガタぬかすな!!勝負から逃げようったってそうはいかんぞ!!」
その時、突如として魔人ブウらしき者のパワーが急激に上がった。
なんてことだ。これが魔人ブウの本当の力か。
「こんなことやってる場合じゃねえぞ。あれを出しちまったのはオラたちなんだ」
諭すようにカカロットは言う。
「し…知ったことか、オレたちの勝負には関係ない」
「みんな殺されちまうぞ!!ブルマもトランクスも!!」
俺様はその言葉うち消すように声を荒らげた。
「だ…だまれ…、だまれだまれ!!」
「オレはそんな甘さを消すためにバビディに支配されたんだ!!」
「だれが…」
ブルマ…、トランクス…。
「だれがどうなろうとかまうもんか!!!」
「嘘だ…、おめえは完全に魂を売ったわけじゃねえ」
カカロット…、俺様はただお前と…。
「…分かった。勝負はお預けだ。どうやら貴様は集中できないようだからな」
「ベジータ…」
カカロットの表情に安堵の色が出る。
「仙豆をよこせ。2人とも相当体力を減らしてしまったからな」
「みんなでやれば魔人ブウにも勝てるさ」
そう言って視線を仙豆のある腰に移すカカロット。
それが一瞬の隙なった。
俺様は両の手で拳をつくるとカカロットの後頭部を思い切り打ち付けた。
音を立てて倒れこむカカロット。
「さすがの貴様も油断をつかれてはしょうがなかったな」
「オレが出してしまった魔人ブウは、オレが片付ける」
「貴様との決着はその後だ。まだオレが生きていたらな」
そう言うと俺様は自嘲気味に笑みを浮かべた。
俺様はどこかで予感していた。生きて帰れないことを。
残念だ、カカロット。こんな形でお前との勝負が終わってしまって。
卑怯な手を使ってまで、お前との戦いを選んでしまった俺様を
お前はどう思っているだろう。
だがこれだけは判ってくれ、俺様にはお前との戦いがすべてだったんだ。
お前と出会い、同じ時代を生き、戦えたことを何よりも誇りに思う。
…いや、おれにはもう一つ大切なものがあったんだ。
行こう。

覚悟

魔人ブウ…。
なんて強さだ。俺様は奴の体の一部で作ったゴムみたいなやつに捕まり、
身動きが取れずに、好き勝手なぶり殺しされそうになっている。
その時だった。不意に大きなエネルギーが近づいてきたかと思うと、
魔人ブウを蹴り飛ばした。
なんとトランクスだ。悟飯の弟、悟天もいる。
「パパ!しっかりして!」
まさか息子に助けられる日がくるとは。
今日はいろんな事がおきる。
俺様は立ち上げり、魔人ブウを見据えたとき、
すでにある決心をしていた。
「トランクス…、ママを、ブルマを大切にしろよ」

愛情

「どういうことパパ? ママを大切にしろって」
さっきの一言でトランクスも何かを察したようだ。
「お前たちはどこかへ非難していろ。魔人ブウとはオレ一人で戦う。」
「いやだ!オレ達も戦う!パパ一人じゃ殺されちゃうよ!!」
俺様は魔人ブウを倒す手段を見つけていた。
「無理だ…、普通の戦い方をしていては」
そう、文字通り最後の賭けだ。
「そんなことないよ!オレ達強いんだぜ!」
トランクスのやる気を遮るように言葉を続けた。
「トランクス…、お前は子供の頃から1度も抱いてやった事が無かったな」
「抱かせてくれ」
そう言うとトランクスを引き寄せた。
恥ずかしがるトランクス。
温もりを感じる。もはや望むものは何もない。
「元気でな、トランクス」
「え?」
驚くトランクスの首に手とうを打つ。
不意をつかれ気を失うトランクス。
次は悟天だ。みぞおちにパンチを浴びせると、
同じように気を失った。
それを見ていたピッコロが近寄ってきた。
「2人をつれて、できるだけ遠くに離れてくれ、いそいでな…」
そう言っている俺様の視線は常に魔人ブウを見据えている。
「きさま、死ぬ気だな…」
さすがに全てお見通しという訳か。
「ひとつだけ教えてくれ、オレが死んだらあの世とやらでカカロットに会えるか?」
無駄な事を聞く。無駄な事はしない主義だった俺が、
地球に住んでからというもの、無駄な事ばかりしてきたようだ。
「こんなときに慰めを言っても何もならんから……」
聞くまでもない。
「そうか、残念だ」
「もういい、いってくれ。急いでな…」
ピッコロの後を追おうとする魔人ブウを制しすると、
体の中の気を体の限界を超えて溜める。
「きさまの倒し方がやっと分かったぜ…」
この爆発波が俺様の全てだ。
「貴様を倒すには2度と修復できないように、こなごなに吹っ飛ばすことだ…!!」
俺様は常にサイヤ人の王子としての誇り、強者であることの誇りを
持って生きてきた。
だが、今にして思えば、それこそが無駄なものだったのかもしれない。
俺様はここで2つの本当の誇りを手に入れた。
一つはカカロットと戦えたこと。
もう一つは、この命を賭してまで守るべき大切なものを見つけられた事だ。
さらばだ。ブルマ、トランクス。
そして、カカロット。
「うおおおおおおーーーーっ!!!!!」
そして、俺様は最後の爆発波を放った。

 
                             第一部  完
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